播州出張 ーその2ー
こんばんは、今井です。
工場へ到着した後、橋本さんに資料を見せてもらったり、播州織について詳しくお話を聞かせてもらったりしました。
まず最初に説明してくれたのが、最新の織り機と播州織の違い。最新の高速織機は、毎分700〜1000回転で生地を織っていくのに対し、橋本さんの使っている機械は、毎分130〜200回転という昔ながらの古い低速織り機。なぜわざわざそんな非効率的な織り方するのかというと、仕上がった生地の風合いが全然違うそうです。高速で織ると、どうしても糸に強いストレスがかかるので、生地が固くしまります。でも低速で織ることで糸本来の柔らかさを生かした優しくてふんわりとした生地が出来るんだとか。だから、このストールはあんなに手触りが良いいのか!と納得。
ではその低速機ではどのように織っていくのかというと、まずは織る布の図を設計していきます。最新機器では全てコンピューターにデータとして取り込んでいくのですが、橋本さんのところではなんと手書きです。この図を見ただけで私には無理だ......と心の中でつぶやいてしまいました。
こんな感じです。素人には何のことだかまったくわかりません。1枚の布を織っていくのに、柄が入れば入るほど、この設計図は複雑になっていくのですが、それを全て手書きで作っていきます。使用する糸の特性を長年の勘と知恵で設計していくとのこと。糸の特性がわかっていないとここで設計しても思っていた織布(しょくふ)にはならないそうで、そうなるとこれも1からやり直しなんだとか。気の遠くなる作業ですよね。
さらにこの設計図をデータ化したものがこちら。
データといっても手で打ち込む機械で、このように穴を開けて上の紙を作ります。ちなみにこの方が橋本さんです。タイプライターのような機械で、上段の白と下段のオレンジを同時に押し、左側にあるローラーを1回転させることで穴が開くのですが、1回転ごとに織り目2つ分。1つの織布を作るのに、このデータ化作業が1日がかり。小さな部屋でコツコツと、設計図通りの穴を開けていきます。
紙巻オルゴールの図面のように空いた穴が、織り機の針が通る道となるのです。紙でやっているので、これもまた間違えたら最初からやり直し。集中してやらないとできない作業ですが、これを1日がかりでやるのはとても大変そう……。
こうして出来上がったデータは機械に設置するのですが、橋本さんのところでは、橋本さんのお父様特製のローラーに設置され、機械と繋がっています。3m以上あるんじゃないかという高さです。
ここまで見せていただいた後、糸の染工場も見せていただけることになったので、いったん工場見学を中断して、急遽染糸工場へ移動。
加古川の支流である杉原川沿いにある工場で、軟水の水が流れるこの場所が糸を染めるのに適しているのだそうです。
染料釜中で生糸を染めています。ちなみにこの釜の深さは2m以上。
これはチーズ染色といって、生糸を巻きつけた大きなミシンのホビンのようなものを1つの棒状の筒に10個くらい通し機械に入れて染めていくもの。通した棒にもたくさんの穴が空いているので、外側からも内側からも均一に染料を入れていくことができるそうです。
これは色のサンプル。「青」といってもこれだけの青があるんです。色の調合でサンプル化するのだそうですが、こんなに細かく色分けされてるなんて驚きでした。
他では織布ができてから染めていくものもあるそうなんですが、播州織では先染めした糸を織っていきます。そうすることで、幾重にも重ねる織り方をしたり、異なった織り方をすることで色の出方を変えられるそうですよ。
色の話をしたので少しだけ面白い話を。
この織布は何色の糸を使っていると思いますか?
橋本さんに、「この布に青色って何種類使っていると思いますか?」と聞かれた時に5種類!と答えたのですが、実は2種類!2種類の青とオレンジのたった3色でこれだけのグラデーションを出せるそうです。これも先染めをした糸を重ねて織ったり織り方を変えることでこういった色の出し方ができるんですって。すごいですよね。
低速機で織るための下準備や糸のことを書きましたが、私はこの日初めて見る機械、手法に驚きばかり。ストールを楽しみにしてくださっているお客様にも是非見てもらいたい!と沢山写真を撮ったり話を伺ってきたのですが、続きはまた次回に。