Bookcover
「DeLoreans文庫本カバー」発売記念
オススメ文庫本(Vol.1)
DeLoreansの文庫本カバーの発売を記念して、私がこれまで読んできたオススメ文庫本を紹介する企画第一弾です。ご要望の多かった「DeLoreans帆布バッグシリーズ」と同じシリーズです。
ぜひ、バッグに入れて通勤や休日にお使いください(穴澤)。
「アフリカにょろり旅」
(講談社文庫) 2009/1/15
青山 潤
2014年の夏頃、私は都内から鎌倉市腰越に引っ越して海釣りデビューを果たした。家から自転車で5分ほどのところに江ノ島が見える片瀬川の河口があり、絶好のポイントに思えた。しかし、そんなに簡単ではなく、ほとんど何も釣れない日々が続いた。
そんなある朝だった。回収したルアーに、鍋に入れる幅5ミリ長さ10センチほどの透明の「くずきり」が針に引っかかっていることがあった。それを外してキャストしていると、しばらくしてまた同じような「くずきり」が付いてくる。
「なぜこんな生ゴミが頻繁に引っかかるのか」と思って手に乗せると、なんとその「くずきり」が動いている? しかもよく見ると、先端に黒く小さな目があるではないか! 「お前、生きてるの? 何物なの?」と思ったところで、ある本のことを思い出した。
ウナギは食材としては人気だが「彼らがどこで生まれて、どのような一生を過ごしているのか」という生態については、ごく最近まで不明だった。昔から川や湖で捕獲されて「蒲焼き」として馴染みの深いウナギであるが、卵や幼魚はどこからも見つからなかったのだ。
実は近年、それを発見したのが「東京大学海洋研究所」の塚本勝巳教授が率いる通称「ウナギグループ」である。日本に生息しているウナギは、なんと太平洋のかなり沖にある海底火山付近で産卵する回遊魚だったのだ。
この本では、その結論に辿り着くまでの材料集めとして、塚本教授のチームのメンバーである青山順氏らが、アフリカのあらゆる場所を旅する。ウナギを捕まえるのに苦労したり、舗装されていない道路を走ったりするのだが、今よりはかなり状況はいい時代かもしれない。
この頃からさらにウナギの生態は詳しくわかってきたが、数が少なくなったり、養殖が盛んになったり状況はかなり変わっているような気がする(ウナギの価格も高くなっているし)。
ウナギの詳しい生態をもっと詳しく知りたいなら、青山さんの続編「うなドン 南の楽園にょろり旅」や、もっと学術的なら塚本さんの「うなぎ 一億年の謎を追」も面白いが、個人的にはこの本が1番好きかもしれない。
未だに毎年、川をあがってくる透明のウナギの幼魚は、淡水で大人になったら、またいつか太平洋の深いところへ行って産卵するのだろう。なぜそんな大変なことをするのか、まったくわからないが。
※追伸:透明の「くずきり」みないなのは、うなぎの稚魚ではなく、穴子の稚魚だそうです、うなぎの稚魚は黒っぽいんですって。(沼津の寿司屋で地元のおじさんに聞きました。2019/02/12)
「ウッシーとの日々 (1)」
(集英社文庫)2003/6/1
はた 万次郎
たしかこの本を読んだのは、それまで暮らしていた「富士丸(ふじまる)」が亡くなって、ひとりぼっちになった頃に友人から勧められてだった。はた万次郎さんが、それまで暮らしていた都内の賃貸アパートを引きら払って北海道の下川という街の一軒家(賃貸)に移住し、現地で「ウッシー」という犬を迎えるという実話の漫画だ。
といっても、かなり適当で、ゆるい生活だった。基本的にウッシーは放し飼いだし、仕事は最低限しかしないし、食べるために川へ釣りに行ったりして、都内でいうところの「社会のルール」なんて関係なく暮らしているのだ。
しかも一軒家の家賃が3500円(1ヶ月)だったりするから、そんなに働かなくていいし「俺もそんな暮らしがしたい!」と思ったものだった。
実現しなくても、たまに読むだけでかなりの心の安らぎになる。文庫で4巻まであるが、決して軽いスタンスばかりではなく、きちんと自分の考え方があるので、ある意味で尊敬も出来る。
今では大吉と福助という犬を迎えたので、こうして田舎でのんびり暮らすこともいいなと改めて思ったりする。きっと、都会暮らしに疲れている人は、読むといいと思う。
「走ろうぜ、マージ」
(角川文庫)2014/7/25
馳 星周
馳さんといえば「不夜城」で好きなって以来読んでいた小説家だが、この本は全然イメージが違う。というのも当たり前で、この本は、その当時馳さんが暮らしていたバーニーズ・マウンテン・ドッグの「マージ」の実話だからだ。2005年、11歳のマージの胸にイボ状のシコリが見つかり、悪性組織球症と診断されてからの話だった。
すっかり元気がなくなってしまったマージのために、馳さんはひと夏を軽井沢の貸し別荘で過ごすことにする。現地に着くと、まだ若いワルテルが喜び、マージの足取りも軽くなる。そういうマージの姿を見るうち、馳さんの考え方がどんどん変わっていく。新宿とか、飲み屋の多い街に馴染んでいた人が、都会から離れていく。そんな話だ。
結構息が詰まる話もあるのだが、これを読んでいた当時はかなり心に響いた。学ぶことも多かった記憶がある。数年後に、ある出版社を通じて取材をお願いしたら、快諾してくださり、当時一緒に暮らしていた富士丸と一緒に軽井沢へ向かったことがある。そのとき、大人になったワルテルと、新顔だったソーラと秘密の散歩道に連れて行ってもらった。
あれから色々なことがあり、ワルテルもソーラもいなくなったが、今ではまた別の相棒がいる。ただ、すべてはこの本のマージがスタートだろう。この本は最初単行本で読んでいたが、今では文庫本も手に入れた。犬との暮らし方はそれぞれが決めればいいと思うが、まだ若い犬と一緒に暮らしている人には、ある部分で参考になると思う。
近日中、オススメ文庫本(Vol.2)を公開予定。
代表取締役 穴澤賢
profile
1971年大阪生まれ。犬と猫と音楽と酒を愛するフリーライター。
2005年にはじめた「富士丸な日々」というブログが話題となり、
翌年同タイトルの本を出版。以後、エッセイやコラムを執筆する
ようになる。著書に「またね、富士丸。(集英社文庫)」
「明日もいっしょにおきようね(草思社)」
「Another Side of Music(ワーナー・ミュージック・ジャパン)」
「また、犬と暮らして(世界文化社)」などがある。
2015年11月に自ら犬と長年暮らした経験をいかしたもとに
商品を開発、販売するブランド「デロリアンズ」を立ち上げる。