犬もコロナウイルスに感染する?人からうつる可能性なども解説【藤田紘一郎教授にもインタビュー】
こんにちは、穴澤です。新型コロナの影響で、不安な日々を過ごしている人は多いのではないでしょうか。私も同じで、あらゆる情報があってどれを信用していいのか分からない。
そこで「笑うカイチュウ (講談社文庫)」の頃からのファンで、「富士丸のモフモフ健康相談室(実業之日本社)」という共著も出させていただいたことのある藤田紘一郎さんに会いに行き、色々教えてもらいました。(2020/05)
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藤田紘一郎
東京医科歯科大学名誉教授。医学博士。専門は感染症学、免疫学、寄生虫学、アレルギー学。東京医科歯科大学卒業。東京大学医学系大学院修了。テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、(永作)長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学大学院教授を歴任。長年に渡り腸内細菌の研究に取り組む。「自力で免疫力を上げる腸の強化書(宝島社)」、「病気に強い人、弱い人(幻冬舎)」、「脳はバカ、腸はかしこい(知的生きかた文庫三笠書房)」など著書多数。
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新型コロナとは何なのか
穴澤:そもそも、新型コロナウイルスって何なんですか?
藤田:コロナウイルス自体は珍しいものではなく、人間に感染するのはこれまで6種類分かっています。そのうち4つはいわゆる風邪の原因で、咳や熱など軽い症状の15%はコロナウイルスによるものだと言われています。だからほとんどの人が、コロナウイルスには感染したことがあるんです。
穴澤:そうなんですか。
藤田:あとの2種類が「SARS」と「MERS」。で、新型コロナウイルスは、それらに続いてヒトに感染する7つ目の正式名称「COVID-19」というコロナウイルスなんです。
穴澤:「SARS」や「MERS」に比べて、なぜ新型コロナウイルスがこれほど大流行しているんでしょう。
藤田:「SARS」や「MERS」は必ず症状が出たのに対して、「COVID-19」は感染しても無症状の人がいる点です。その人が感染源になり感染が広がり、一部の人が重症化する。だから「SARS」や「MERS」や「エボラ出血熱」みたいに抑え込みにくいんですよ。
穴澤:何ともないですが、僕も感染しているかもしれないと。でも症状が出ない、軽症で済む人と、重症化する人の違いは何なんですか。
藤田:まだ断定は出来ないんですが、私は免疫の差ではないかと。
穴澤:というと?
藤田:重症化したり亡くなったりする方に持病のある人が多いというじゃないですか。糖尿病や肝臓病、それから抗がん剤治療は免疫が落ちるんですよ。そういう人の体に入ったときに免疫で抑えられないから、重症化するのではないかと思います。
穴澤:糖尿病って免疫落ちるんですか。
藤田:落ちますよ。抗がん剤も免疫を全体的に下げますから。そうでなくても免疫が落ちたから、がんになっているわけで。健康な人でも毎日細胞が、がん化するのを免疫で抑えているんです。それが抑えきれずに増殖したら、がんになるんです。で、抗がん剤はがんの増殖を抑えると同時に免疫も落とす。
免疫の働きとは?
穴澤:がん細胞を免疫が抑えきれないと増殖するのは、新型コロナと同じですね。
藤田:ウイルスと細菌の違いはありますが、病気になるメカニズムはだいたい同じなんですよ。
穴澤:ほぅ。
藤田:私たちの体には日々、ウイルスや病原菌が入ってくるんです。そうすると、まず免疫の第一陣であるNK細胞やキラーT細胞が攻撃するわけです。免疫がしっかりしていると、ここで防げるんですが、これを乗り越えられると症状が出る。そういう意味で、新型コロナが免疫を乗り越えると重症化する。
穴澤:なるほど。
藤田:あと、免疫は高齢になるほど落ちるという点もあります。例えばNK細胞の活性は、30代を過ぎると低下することが分かっています。
穴澤:今言われているような単純な年齢差ではないと。
藤田:そこには免疫が関係しているのではないかと。あと、免疫にはもうひとつあって、先制部隊とは別に、マクロファージという敵を食べる細胞がいるんです。それで食べて分析した情報をB細胞に伝える。するとB細胞が「抗体」を作る。抗体ができたら、それで敵を寄せ付けないことが出来る。これを「獲得免疫」というんです。
穴澤:少し前に、慶應義塾大学病院が症状のない一般患者を抗体検査したら、6%が抗体を持っていたというニュースがありましたが、そういうことですか。
藤田:そう。だから、新型コロナ感染した場合にも2パターンあるんです。まずは、免疫の先制部隊が戦っているケースと、すでに抗体を持っているケース。前者だと乗り越えられてウイルスが増殖する可能性はありますが、後者だと恐らく大丈夫でしょうね。
穴澤:それは個人差ですよね。その人の体の中で抗体が出来るのって、どのくらいかかるんですか。
藤田:だいたい2週間から3週間かかります。新型コロナについては抗体を持っていると大丈夫とはまだ断言できませんが、これまでの伝染病から考えると大丈夫ではないかと。
免疫力は日々変わる?
穴澤:抗体とは別の、先制部隊のNK細胞とかキラーT細胞の活性って、そんなに変わらないでしょう?
藤田:いえいえ、日々変わりますよ。ささいなことでも。例えば、寝る時間が減っただけでNK細胞の活性はガクッと落ちたりします。
穴澤:そうなんですか。
藤田:あとは暴飲暴食したり、嫌な人と会ったり(笑)。免疫の先制部隊の活性は、そういうメンタル面で日々上がったり下がったりしているんです。
穴澤:へぇ。
藤田:だから嫌なことは出来るだけしない方がいい(笑)。免疫はメンタル面で30%は左右されるといわれていますから。
穴澤:あとの70%は?
藤田:腸内環境です。腸には免疫細胞が集結しているんです、その割合は全体の70%。免疫だけじゃないですよ。幸せ物質であるセロトニンなども腸がないと作れない。だから腸内環境(腸内細菌)は心と体、どちらにとっても重要なんです。
(※詳しく知りたい方は「脳はバカ、腸はかしこい(知的生きかた文庫三笠書房)」などを読んでみてください)
穴澤:腸内環境を良くするには、どうすればいいんですか?
藤田:食物繊維を多く摂ること。そうすると腸内細菌が増えて免疫力を高めることは分かっているんです。
犬や猫は大丈夫なの?
穴澤:あと、新型コロナと犬(猫)の関係ってどうなんですかね。香港で一例、飼い主から感染したのか、犬で陽性反応が出たという報道もありましたが。
藤田:症状は何も出ていないんですよね。ヒトから犬、犬からヒトへとは感染しないと思いますよ。もしもそうなら、世界中でこれだけ大流行していればもっと症例が出ているはずですから。そもそもウイルスはそんなに簡単に種を越えて感染できないんです。
穴澤:新型コロナはどうなんですか?
藤田:今のところ、コウモリにいたウイルス(コウモリでは無症状)が人に感染できるように突然変異したのではないかと言われているんですが、そんなに頻繁に起こることではないんです。例えば豚コレラなんて何年も前からありますが、ヒトには未だに感染しないでしょ。
穴澤:ウイルスって、厳密にいえば生物ではないというか、単独では増えることはできませんよね。
藤田:単独では増えません。でも侵入した生物の細胞を、うまく利用して増えるんです。それにそんなに簡単に生物の壁を越えられない。それにさっきも言ったように、ヒトと犬の間で感染できるように突然変異したなら、もう山ほど症例が出ているはずだから大丈夫だと思います、少なくとも現時点では。
穴澤:それに犬を撫でたりして触れ合うと、セロトニンが分泌されるといいますよね。
藤田:セロトニンだけじゃなくて、βエンドルフィンなども分泌されますね。さっき言ったみたいに免疫はメンタルの影響を受けるので、犬や猫と触れ合うのは、いいと思いますよ。
予防は何を心がければ?
穴澤:予防対策って他に何かありますかね。マスクって、ウイルスを防げないでしょう。
藤田:「N95」という高性能マスクでは、0.3μm(マイクロメートル)の粒子の侵入を95%防げるようですが、新型コロナの直径は0.1μmですからね、普通のマスクだとまず防げません。ただ、感染者が他人にうつさないためには有効かもしれません。
穴澤:感染させる予防?
藤田:咳やくしゃみをするときに、ウイルスを含んだ飛沫を周囲に飛ばさないために、という意味では効果があるのではないかと。
穴澤:人にうつしたくはないですもんね。
藤田:それと、鼻や喉の粘膜にある線毛にウイルスや細菌を外へ追い出そうとする働きがあります。乾燥すると、その働きが悪くなるので、鼻や喉の湿度を保つ意味でもマスクはいいと思います。
穴澤:それと手をアルコール消毒する?
藤田:駄目とはいいませんが、頻繁にアルコールで手を拭くのは止めた方がいいと思います。なぜなら、経験したことのある人は分かると思いますが、アルコールで手を吹き過ぎると、逆にガサガサになって手が荒れるんです。
穴澤:僕もなったことがあります。
藤田:あれは、皮膚常在菌まで殺してしまうからなんですね。皆さん意識していないと思いますが、私たちの皮膚には皮膚常在菌が住み着いていて、それがばい菌や外敵から皮膚を防御してくれているんですよ。皮膚常在菌がいなくなると、手が荒れて、逆にそこからばい菌が侵入しやすくなるわけです。
穴澤:ではどうすれば?
藤田:石鹸で大丈夫です。ウイルスはだいたいみんなエンベロープという膜に包まれているんですが、石鹸の界面活性剤には膜を壊す働きがあり、ウイルスを破壊してくれるからです。東京都健康安全センターがノロウイルスで行った実験では、ハンドソープ30秒のもみ洗いで0.01%まで減らす事ができたという報告があるので、それくらいで十分です。
穴澤:藤田教授が以前から言っている「清潔思考もほどほどに」ということですね。
藤田:そうです。私たちは、目に見えないウイルスとか細菌がうじゃうじゃいるところで生きているわけです。よく除菌といっていますが、100%除菌するのなんて日常生活では不可能です。それに皮膚常在菌や腸内細菌みたいに、お互いに助け合っている部分もあるので、いなくなると逆に免疫が落ちるんですよ。
穴澤:たしかに。
藤田:だから、行き過ぎた清潔思考は、免疫の働きを抑えてしまうので、ばい菌ともほどよく付き合った方がいいと思います。その方が免疫も高まることはこれまでの研究で明らかになっていますから。
穴澤:あまり神経質にならない方がいいと。
藤田:そうです。きちんと食べて腸内環境を整えて、感染予防にマスクをして、石鹸で手洗いすることを心がけたらいいと思います。最低限のことをして、あまり神経質になりすぎず、楽しいことを考えたり笑ったりすることは免疫学の観点から大切だと思います。
穴澤:いつ終息するでしょうかね。
藤田:そればかりはは分かりませんが、必ず鎮静すると思いますよ。獲得免疫が広まればウイルスも増殖でなくなりますから。ただね、新型コロナが収まっても、いつかまた新たな新型ウイルスや病原菌が出てくるんです。それは歴史を振り返ってもそうですから。
穴澤:またそんな怖いことを(笑)。
藤田:だって人類はずっとそうやって病原菌と戦ってきたんですから。
穴澤:今回の国の対応とか経済的な補償の話は別として、個人で出来ることとして最後に、読者に何かアドバイスがあれば。
藤田:なるべく密集するのは避けた方がいいとは思いますが、あまり神経質にならず、スーパーに買い物に行くとか、近所を散歩するとか、そういうことはしてもいいと思いますよ、私は。ずっと家に閉じこもってたら気が滅入るじゃないですか。
穴澤:そうですよね。僕は大吉と福助がいるから毎日散歩しなくちゃならないから、少し気は紛れますが。ありがとうございました。(2020年5月)